East End extra
- 幕間6 : 宿命の出会い -

『インパクトに富んだ出会いは後々にまで影響を及ぼす』
こんな言葉を聞いた事があるが…
これはまさに、その言葉を言い表した出来事だと言える。
(東高校14HR・薙原 亨の事後録より)







 4月6日。
 一時期咲き誇っていたほどの勢いは見せないものの、まだ根強くその美しさを振りまいている桜を背に、俺は大きく開かれた門扉をくぐった。
 高校生活の初日としては文句なしの上天気の中、俺はそこまで引っ張ってきた新品のMTBのペダルに足をかけた。
 MTBを選択したのには、それなりの理由がある。門のすぐ外を走るのは、舗装もされず、轍の深く刻まれた山道だ。こんなところを普通の自転車で走った日には、麓に着くころには間違いなく、前後輪ともにパンクしている。
 轍があるとは言っても、こんな道を通るのはうちの車くらいだ。登ってくる車のことなど気にせずに、俺は一気にその山道を走り出した。
 安いものを選んで買った割には、乗り心地はすこぶる良い。少なくとも、今まで乗っていた普通の自転車とは雲泥の差があることには間違いない。最初の勢いをそのままに、俺は一気に山道を駆け下りていった。

 7分後。
 俺は少し埃まみれになりながら、東高校の校門に辿り着いていた。中学の時は歩きだったから気がつかなかったが、自転車であの山道を駆け下りると、かなり埃を撒き散らすらしい…考えてみれば当たり前か。
 埃を払いながら、俺は校門を抜けた。まず目に入るのは、俺と同じように自転車を引いている、下ろしたての制服に身を包んだ…まあ、間違いなく俺と同じ新入生だろう。その中に混ざって、拡声器を片手にした上級生たちが、忙しそうに誘導作業をしている。
『まず自転車を左手の臨時駐輪場に』
『南校舎前の掲示板で自分のクラスを確認してください』
 …とか言っているのはいいんだが、調整がうまくいってないのか、頭の中に直に響くようなハウリングが、あちこちから聞こえてくる。
 何とかしろよとか思いながら耳を塞ぎ…ふと左を見てみると、ちょっとした芝生の広場(前庭と言った方が正しいかもしれない)が目に飛び込んできた。膝丈くらいの低木に囲まれたその前庭の真ん中には、大きな欅(けやき)の木が堂々とした佇まいを見せている。校内のほかのフェンス沿いに植えられている木々とは違い、特別なステージを与えられているその欅の木に、俺はある種の風格のようなものを感じ取っていた。多分これが、どの学校にもあるシンボルのようなものなのだろう。
 少しその場で見入っていた俺の脇を、他の新入生たちが、何も興味無いといった風に自転車を引いて通り越していった。…まあ、確かに今は欅の木に見入っている場合じゃないか。また後で見る時間は充分あるだろうと思い直し、俺もその後について、駐輪場へと向かった。
 ………。
 …確かに、これは臨時駐輪場だった。グラウンドに自転車を並べるように石灰で枠を引いてあるだけのものなんだが、
「グラウンドって言った方が解りやすいんじゃないか?」
 そう思いながらも、俺は来た道を引き返し、掲示板へと向かった。
 南校舎前の掲示板っていうのは、探すまでもなくすぐに見つかった。人だかりが出来てたし、合格発表があったのと同じ場所だったからだ。
 早速、自分の名前を探し始めて…俺はそこで、ちょっとした違和感を覚えた。当然このクラス分けの名簿は、出席番号順に並んでいる。それは当たり前なんだが、今目の前にあるものは、何と言うか…中学まで見慣れていたそれとは、根本的に違うものだった。つまり、
 出席番号が男女別々になっていない。
 名簿に男子の名前が5〜6続いたかと思うと、それがごく当たり前とでも言うように、唐突に女子の名前が顔を覗かせるのだ。まあ、わざわざ男子の何番、女子の何番とか言わずに済むこっちのほうが、便利とは言えるだろう。
 多少の戸惑いは覚えたものの、そんな名簿のな行のあるあたりを、俺は端から順に目で追い始めた。
「薙原、薙原…」
やがて、自分の名前を見つけ出した俺は、
「何かの冗談みたいだな…」
 思わずつぶやいていた。
 11HRから17HRまである中で、俺が名前を見つけたのは14HR…ちょうど真ん中にあたるクラスで、しかもな行…つまり、俺は自分の名前を、掲示板のど真ん中に見つけたことになる。
 だからといって、それに深い意味などある筈も無く、俺はその足で新入生の流れに入っていこうとした…
 その時。
「あ、キミ、ちょっと質問いいかな?」
 いきなり横合いから声をかけられ、俺は何気なしにそっちを向いてみた。
 まず視界に飛び込んできたのは、マイクだった。それまでの体験で、いきなり目の前にマイクが突き出されるなんてことは勿論無く、意表を突かれた俺は、一歩退いてしまった。
 落ち着きを取り戻し、そいつを上から下までざっと見てみる。
 背は俺よりも低い…160cmくらいか。笑ってはいるが、射るような眼差し。まあ整った顔立ちと言えるだろう。頭の割と高い位置で、青いリボンで髪をまとめてあり、それを緩く三つ編みにしてある…俺は髪型については詳しくないんだが…おさげでいいか。『PRESS』と文字の入った腕章に、左手にはマイク、右手にはレコーダー…取材してるのが一目瞭然な出で立ちだった。
 俺がそうやって観察してる間にも、そいつは話を続けていた。
「あ、あたしは放送部の夏目柚葉(なつめゆずは)。今、新入生にいろいろとインタビューしてるんだけど、ちょっと時間いいよね? うん、今あたしがいいって決めた!」
 …強引なヤツだ。そっちは良くても、俺の意思はどうなるんだ? しかし、これは取材終わるまで離してくれそうに無いなと直感した俺は、半分仕方なく、半分は好奇心でその取材に応じることにした。
「じゃあまず、ありきたりなところからいこうかな。キミ、名前は?」
「薙原 亨(なぎはら とおる)」
「ふ〜ん、ナギハラ…変わった苗字だねぇ」
 放っとけ。それに、夏目だってありきたりな苗字とは言えないぞ。
「じゃあ次。クラス分けはもう見てきたんだよね? どこのクラスになったの?」
「14HR」
「14HR? ウソ、水元(みなもと)先生のクラスじゃん! うわ〜、どうしよう…」
 どうしようも何も、俺のこと放っといて担任のことで騒いだって仕方あるまい?
 俺の冷ややかな視線に気付いたのか、その夏目柚葉と名乗る放送部員は、すぐに気を取り直して質問してきた。
「…あ、ごめんね〜。で、キミ…ナギハラくん、出身中学は?」
「幹山(かんざん)中学」
「あ、じゃあ家も近いんだ。登校楽でいいよね〜。あたしなんて川向こうでさぁ…」
 …あの山道が楽だって? 俺にしてみれば何Km離れていようが、川向こうのほうが楽だと思うんだが…まあ、コイツはこっちの事情など知らないだろうから放っておくととにしよう。
「…でね、橋渡ってる時に横風が強いと、自転車でも飛ばされそうになるのよね〜。あれには参っちゃうわ」
「いや、あの…インタビューじゃなかったのか?」
「あ、そうだったわね」
 こいつは…
「で、中学では何か運動系の部活でもやってたの? 何か体格よさそうだし」
「部活はやってない。他が忙しかったからな」
「へぇ、どんなことやってたのかな?」
 …まずいな、放っておいたらどんどん立ち入った質問に入っていきそうだ。このままだとインタビューも長くなりそうだったから、俺はぞんざいに受け答えることにした。
「部活以外のこと」
「ふぅん…部活以外のこと、ねぇ…」
 と、その言葉の直後に、夏目柚葉が目に剣呑なものを浮かべた段になって、俺は自分の失策を知った。何か言い訳を考えてこの場を切り抜けようとしたその瞬間、
「じゃあ、そのあたりのこと、もっとじっくりと質問させてもらっていいかしら?」
 わしっ! と、俺の腕を小脇に抱え、
「あっ、俺教室に行かないとっ…」
 やっと出てきたそんな俺の言葉も、
「大丈夫、まだ時間あるから」
 のひとことで切り捨て、そのまま夏目柚葉は俺を引きずって、さっきの臨時駐輪場の方に戻り始めた。
 その途中のことだった。不吉な会話が聞こえてきたのは。
(あ〜あ、夏目のやつ、またやってるぜ)
(あの1年生もかわいそうになぁ…)
(どうする? 先生呼んで来るか?)
(先生でどうにかなる問題じゃないだろ。それに俺らは今、他の新入生の誘導中だ)
(それもそうだな)
 …ちょっと待て、これが毎度のことなのか? しかも先生でどうにもならないって、一体どういうことなんだ?
 俺は背筋に寒いものを覚えながらも、それでも今のところ、そのまま引きずられて行くしか方法が無かった…


 さっき自転車を置いた臨時駐輪場に行くちょっと手前には、体育館と南校舎を繋ぐ渡り廊下があって、夏目柚葉が俺を引きずっていったのは、その渡り廊下に出る南校舎の出入り口だった。
 そのまま土足で校舎の中へと入り込んでいこうとする夏目柚葉を見て、
「ち、ちょっと待て、土足っ!」
 と言ってみたものの、
「あら、そんなこと気にしなくていいわよ」
 と、それが当たり前のように、夏目柚葉は靴を履いたままで、校舎の中に入っていった…俺を引きずったままで。
 中は出入り口にありがちな、ちょっとしたホールになっていて…夏目柚葉は、そのホールに入ってすぐ右側にある扉へと向かっていった。
『放送部』
 ドアのプレートにはそう書かれていた。ということは、ここが放送部の部室なわけで…なるほど、土足を気にしない訳だ…いや待て、いくら出入り口からすぐの場所にあっても、ホールを土足で歩いていいことにはならんぞ?
 しかしそんな俺の思いとは裏腹に、夏目柚葉は何に構うことなく、土足のままでドアを開き、部室へと入っていく…もちろん、俺を引きずったままで。
「みんな、今戻ったわよ」
 部室っていう言葉のイメージから、またひどく狭い部屋に、雑然と物が積み上げられているのかと思っていたんだが(中学のとき見かけた運動系の部室がちょうどそんな感じだった)…中は意外に広く、かなり整頓されていた。部室というよりは、ちょっと小洒落たアンティークショップみたいな雰囲気があった。
 そんな部室の中で、何か忙しそうに動き回っている何人かの部員たちが、一斉に声の主…つまり夏目柚葉の方に顔を向けたけど、すぐにまた忙しそうに自分の仕事へと戻っていった。そんな中、一番奥にある、法律事務所なんかにありそうな大きな机の向こうから声が届いた。
「夏目くん、取材もいいけど、こっちの準備も手伝ってくれよ」
 声の主は立ち上がって机を回り込み、話を続けながら近づいてきた。
「もうすぐ入学式始まるんだからね…」
 と、そこまで言いかけて、
「おや夏目くん、その腕に抱えてるのは一体?」
 目ざとく俺を見つけ(まあ、状況的に見つからない方がおかしいが)、文句をそっちのけで質問してきた。
「え? ああ、この子ね、早速だけど入部希望者よ」
 待て、誰がいつ入部を希望した? 俺がそう抗議しようと口を開きかけたとき、
「入部希望者?」
 その近づいてきた奴は、夏目柚葉の答えに一瞬怪訝な表情を浮かべ、近づく足を速めた。そして俺の前に立ち、手を両肩にぽんっと置いたかと思うと、何か諭すような口調で話し始めた。
「きみ、入学式も始まっていないのにこの部に入ろうなんて…まあ、部長としては入部希望者は大歓迎なんだが…だがしかしっ!」
 ここで妙に言葉に力がこもった。
「ご覧のとおり、夏目くんは校内でも1、2を争うほどの美貌を持ち合わせている。万が一、その夏目くんの外見に惹き付けられて入部を決意したのであれば…やめておけ、今ならまだ間に合…」
「どういう意味よっ!!」
 部長の言葉が終わらないうちに、夏目柚葉が声を荒げ…次の瞬間、その一閃した腕は轟音とともに、部長を背後にある棚へと吹き飛ばしていた。その後棚から落ちてきた数々の機材によって、部長は二次災害に遭っていた。その1つ1つがいちいち重そうなんだが…大丈夫なのか?
 それにしても、ただ殴っただけでは到底あんな轟音は出ない筈だ。疑問を感じた俺は、夏目柚葉の振りぬいたその腕を…その先を見てみた。そこに俺は、信じられないものを確認した。夏目柚葉が握っていたそれは、およそ1mほどもある、かなり重そうなバールだったのだ。…あんなもので殴られたら、あの部長、ただの怪我じゃ済まないぞ? いやそれより…そもそもあのバール、一体どこから取り出したんだ?
 突然の出来事に呆然としながらも、あれこれ考えていると、
「ほら夏目くん、いきなりの事にその新入生の子が困ってるじゃないか」
 と、たった今殴り倒された部長が、いとも平然とした風体で、機材の山の中から起き上がってきた。その顔に浮かぶ表情は、たった今バールで殴られたなんて全く感じさせないほど爽やかな笑顔だった。
 …待て、俺の見たところ、今のは良くて打撲傷、悪いと骨折まで行ってる筈だぞ? それなのに目の前の部長は、傷一つ負っている様子さえ見えない。部長と夏目柚葉で一芝居打ったのかとも思ったが、肩を震わせて怒りを堪えている夏目柚葉を見ると、どうもそんな感じではない。そもそも、俺相手に芝居を打つのに、どれほどのメリットがあるのか甚だ疑問だった。
 と、そこで部長は俺の方に視線を向けて、何事も無かったかのように口を開いた。
「ああ、自己紹介が遅れたね…僕は長谷川雅人(はせがわまさと)。この放送部の部長だ。入学早々、夏目くんに目をつけられたようだが…まあ、頑張ってくれたまえ」
 他人事だと思ってこいつは…
「僕でよければ、色々と相談に乗るよ?」
「じゃあ今ここでこいつを何とかしてくれ」
 そんな部長の申し出に、俺は即座に夏目柚葉を指差してそう言った。が、
「それは無理だな。この東高校内で夏目くんを止められる人なんて、数え上げれば片手で足りるほどだ。その中にはもちろん、僕は含まれていない」
 などと、不可解な事を言い出した。
「…じゃあ、この部活一体どうやって成り立ってるんだ?」
「うん、それがまた不思議なところでねぇ、何故か成り立っているんだよ、これが。…まあ、夏目くんが気を利かせている訳じゃないのは確かなん…」
「まだ言うかっ!」
 再び夏目柚葉のバールが一閃し、部長は機材の山へと吹き飛んだ。その後、バールの先を俺に向けて、
「あんたもつられて変なこと口走ってるんじゃないわよ!」
 などとのたまわった。…いや、至極普通に思ったことを言ったまでだが。
 …と、事ここに至って、俺はようやくその事に気がついた。夏目柚葉が目の前でバールを突き出している今、俺は誰にも拘束されていないという事に。
 俺は慎重に背後を覗き見て、出口が塞がっていないのを確認した。あとはタイミングの問題だったが…それは俺が作るまでも無く、すぐに訪れた。
「それより夏目くん、会場のセッティングの方、手伝ってもらわないと…」
「何言ってんのよ、役割分担は事前に決めてあったでしょう? あたしは突撃レポート班として、こうして当日の取材をすることになって…」
 律儀に夏目柚葉の口上を全部聞いてやる必要は無い。俺は、夏目柚葉の気が部長に向いた隙をついて、部室の出口へと駆け出していた。
「あっ! 待ちなさい、ナギハラっ!」
「この状況で誰が待つって言うんだ?」
 言い捨てて俺は出口を抜けると、追って来るであろう夏目柚葉の足を少しでも止めようと、後ろ足でドアを蹴飛ばした。
 直後、背後から聞こえてきたのは、ドアを閉めた時の音…とは、とても思えなかった。ドアを閉めた音というよりは、ドアを蹴破ったような音に反射的に振り返ってみると…今俺が閉めたドアから、バールが半分以上突き出ていた。もちろんそれは、夏目柚葉が数瞬前まで持っていたものだ。
 …まさか、俺に向かって投げるつもりだったのか?
 背筋に冷たいものが走り抜けるのを感じながらも、俺はそのままホールの端を東西に走っている廊下を、東側へ向かった。
 すぐに、左側に昇降口が現れた。右側を見てみると、新入生用の校舎の見取り図が、掲示板に貼り付けてあるのが目に入った。ざっと目を通した後、俺はその見取り図のとおり、もう既に人通りの絶えた廊下を、3階へと向かって小走りに駆けていった。

 …結局14HRに辿り着いたのは、教室への集合時間を15分も過ぎてからのことだった。すでにみんな揃って、担任の先生まで来ているらしく、これからの入学式について説明する声が、中から聞こえていた。
 …遅れたからと言ってここで待ってても意味が無い。俺は意を決すると、ドアの取っ手に手をかけ、ひと息にそれを横に滑らせた。
 当然のことながら、中の視線は一斉に俺に集中した。一瞬遅れて、教壇の方から声がかかる。
「どうした、遅かったな?」
 細面に眼鏡をかけたその顔には、とぼけたような表情が浮かんでいて、特に咎めるような雰囲気は無い。普通こういう日は背広だと思うのだが、白衣を身に着けているあたり、他の先生とは違う何かを感じさせた。疑うまでも無く、これが夏目柚葉が言っていた担任の水元先生だろう。
 今までのバカみたいな経緯を話して信じてもらえるかどうか疑問だったが、他にどうにも言い様が無い。俺は素直に理由を話すことにした。
「すみません、放送部に捕まってて…」
「放送部? …ああ、夏目か。しょーがないなぁ、あいつも」
 放送部って言っただけで全てが通じるのか。しかも個人名が出て、そのことについて大して問題になっていないようだ。つまり、長谷川部長が言っていたのは、嘘でも誇張でもなかった訳で、ここに至って、俺は初めて夏目柚葉の凄さを思い知らされた。
「入学早々、災難だったな。うん、座っていいぞ」
 クラスのほかの連中が不思議そうな視線を送ってくる中、俺は空いている席へと足を運んでいった。
「さて、全員揃ったところで、そろそろ入学式が始まるぞ。みんな、体育館に移動してくれ」
 来たばっかりでもう移動するのか…


 裏方で何か大変だったらしいが、表向きは何事も無く入学式が終わり、その後のHRも、鐘の音が終わりを運んできた。
 今日1日で妙に疲れたような気がして、俺は座ったままひとつ伸びをした。高校生活の初日にしては、色んな手応えがありすぎた。特に夏目柚葉。どうにもこの先、厄介な事になりそうだ…そんな風に思いながら、俺は鞄を肩に担ぎながら席を立った。
 教室の出口へと足を向け、数歩歩いた…そこで、1つ気にかかるものが俺の目に飛び込んできた。
 校内では名札の着用が義務付けられている。当然、俺も今名札をつけているから、それだけならば特に気にかかることもない。問題は、そこに書いてあった名前だった。
 ……水嶋 颯?
 もちろん、初めて見る名前だ。まだ席に着いているそいつの顔を見ても、やっぱり見覚えが無い…当然だ、会ったことがないんだから。
 見た目何も特徴がなさそうでいながら、何かしら普通じゃない雰囲気を感じさせるそいつの顔と名札とを見比べながら、俺は半ば無意識にそれを口に出していた。
「水嶋…みずしま…」
 俺のそのつぶやきに気がついて、その水嶋って奴が顔を上げた。
「ん? ああ、朝遅れて来た人だね。え〜と、薙原…なぎはら…」
 次の瞬間、その水嶋って奴と俺の声が重なっていた。
「「…この名前、なんて読むの?」」
 同時に出た声に、俺たちはお互いに口元を緩めていた…




East End extra - "the first contact with NATSUME Yuzuha" … end


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